Antonio Sánchez

Jazz Drummers of Today
現代ジャズドラマー列伝

Antonio Sánchez / アントニオ・サンチェス / No,003

圧倒的な世界観に呆然となるパット・メセニー・グループ最後の作品!
The last work of the Pat Metheny Group that will leave you stunned by the overwhelming world view!

Pat Metheny Group / The Way Up / 2005
パット・メセニー・グループ / ザ・ウェイ・アップ

Guitar, Composed By, Producer – Pat Metheny
Bass, Co-producer, Violin, Cello – Steve Rodby
Drums, Xylophone – Antonio Sánchez
Guitar, Percussion, Vocals – Richard Bona
Harmonica – Gregoire Maret
Percussion – David Samuels
Piano, Co-producer, Xylophone, Composed By, Keyboards – Lyle Mays
Whistle, Trumpet, Vocals – Cuong Vu

現代ジャズドラマー列伝 ≪ アントニオ・サンチェスの巻 ≫ 第3弾は、
再びパット・メセニー・グループ作品。
色々な意味で、感慨深い作品だ。

まず第1に、このアルバムは1曲しか入っていない。
ただし、こういうこと ↓

総演奏時間68分を越す大作であり、日本国内向け発売盤ではパート3の部分に更に4分間がボーナスとして追加されている。便宜上4パートに分かれているが、メセニーは組曲ではなく、CD1枚分でもって一つの楽曲であると捉えている。(Wikipediaより)

それは、こういう理由から。
つまり、アルバムのコンセプトを無視した新しい音楽鑑賞法 “iPodのシャッフル再生” へのアンチテーゼだということだ。

このアルバムは一種のプロテスト・ミュージックなんだ。
何に対してのプロテストか。今世界はより狭く、小さくなり、細部を気にする余裕もなく大ざっぱに物事を処理する方向に向かっている。その現状に対してもっと長い目をもとう、もっとディテールを、もっと統括的な音楽を、という提案をしたかったんだ。以前は本来8分ある曲を、4分に縮めなくてはいけないというプレッシャーに悩まされていたけれど、今はその時代が懐かしいほどだ。現時点では、携帯の着信音に代表される、たった2小節が音楽のゴールになっているのだから。それでいいのだろうか。ぼくたちは、もっと長い形でぼくたちの音楽的アイデアをサウンド化したいと考えた。(パット・メセニー)

それから第2のポイントは、この作品を最後に盟友ライル・メイズがグループを去り、
結果、本作が今のところP.M.G.作品として最後のアルバムとなっているということ。

新作の実現は、ライル・メイズがこの世を去った今となっては儚い夢だが、
新たなピアニストでのP.M.G.復活を望むファンは、多いだろう。

プロテスト・ミュージックということで、いつものP.M.G.作品に比べ、ややリズムの強さが際立っているし、やわらかく美しいスキャット・ボーカルが入っていないのは大きな特徴だ。

しかしながら、もちろんメセニー・ワールドは、常に完璧で、
その空間構築能力は、いつにも増して堅固であり、
少人数のコンボが作り出す信じられない広大で圧倒的な世界観には、
感服するばかり。

最後の癒やしのようなサウンドでしめるのはメセニーのパターンだけど、
重めのテーマだっただけに今回の祈りのようなラストは、ことさら胸を打つ。

サンチェスのライドの美しさと変幻自在さには、さらに磨きがかかってるし、
アルバムへの貢献度も計り知れない。

アルバムで何かを表明するという師匠メセニーの姿勢は、アントニオ・サンチェスの作品に対する姿勢に確実に影響をあたえてる気がする。

いろんな感慨に浸りながらも、その圧倒的な世界に呆然となる、
グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞ウイナー作品。

Antonio Sánchez / アントニオ・サンチェス
– 1971年、メキシコ、メキシコシティ生まれ –

5歳でドラムを始め、10代初頭にはすでにプロとして演奏を始める。
1993年にメキシコ国立音楽院でクラシック・ピアノの学位を取得後、ボストンに移りバークリー音楽大学で学ぶ。さらにニューイングランド音楽院を優秀な成績で卒業。1999年にニューヨークに進出、2001年よりパット・メセニ・グループの一員として8枚のアルバムに参加、うち3枚でグラミー賞を受賞。
そのほか、チック・コリア、クリス・ポッター、デビッド・サンチェス、ジョン・パティトゥッチ、ダニオ・ペレス、ケニー・ワーナー、アビシェイ・コーエンなどなど様々なアーティストと共演を果たし、自らのリーダー・アルバムでも高い評価を得る現代最高峰のドラマーである。

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